退去費用はどこまで払う?原状回復のガイドラインで分かる「払わなくていいもの」
- ふつうに暮らしてできた汚れ・傷みと、年数で古くなった分は貸主の負担
- 壁紙は6年で価値が1円。住んだ年数で借主の負担が減る計算例
- 特約の3つの要件と、退去の立会い・請求に納得できないときのチェックリスト
目次
賃貸の部屋を出るとき、気になるのが退去費用です。「壁紙を全部張り替えるので○万円」「クリーニング代を敷金から引きます」——言われるままに払っていませんか。
国土交通省のガイドラインには、借主が払わなくていいものがはっきり書かれています。この記事では、だれが何を負担するかの一覧、壁紙の年数の考え方、退去の立会いでのチェックポイントをまとめました。
結論:ふつうに暮らしてできた傷みは、払わなくていい
- 貸主が負担:ふつうに暮らしてできる汚れ・傷み(通常損耗)と、年数で古くなること(経年変化)。これらの修理代は家賃にふくまれているという考え方です
- 借主が負担:わざと・不注意で付けた傷や、掃除などの手入れをしなかったせいで傷んだ部分
- 借主が払う場合も:住んだ年数に応じて負担が減る。壁紙は6年で価値が1円になる
2020年4月からは民法621条にも、借主の原状回復の対象から通常損耗と経年変化を除くと書かれています。原状回復とは「入居したときの状態に戻すこと」ではありません。
だれが払う?よくある例の一覧
| 場所 | 貸主の負担 | 借主の負担 |
|---|---|---|
| 床 | 家具を置いたへこみ・日焼けの色あせ・畳の変色 | 飲みものをこぼして放置したシミ・引越しで付けたキズ |
| 壁 | 冷蔵庫やテレビの裏の黒ずみ(電気ヤケ)・画びょうの穴・ポスターのあと | タバコのヤニ・におい、結露を放置したカビ、下地まで届くくぎ穴・ネジ穴 |
| 水まわり | 設備の寿命による故障 | 手入れ不足の油汚れ・カビ・水あか |
| 掃除・鍵 | 次の人のためのハウスクリーニング(ふだん掃除していた場合)・鍵の交換(なくしていない場合) | 掃除をしていなかった部分のクリーニング・鍵をなくしたときの交換 |
| ペット | ― | 柱や壁のキズ・におい |
出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」別表3をもとに当サイトで整理。実際の負担は、契約の内容と部屋の状態で決まります。
壁紙(クロス)は「住んだ年数」で負担が減る
借主が壁紙を傷つけてしまった場合でも、全額を払うとは限りません。ガイドラインでは、壁紙は6年で価値が1円になるとして、住んだ年数に応じて借主の負担を減らします。また、張替えは傷のある面の1面分までが借主の負担の目安です。
入居したときに新品だった壁紙を、1面4万円で張り替える場合で計算すると、次のようになります。
| 住んだ年数 | 借主の負担割合 | 負担額 |
|---|---|---|
| 1年 | 約83% | 約33,300円 |
| 2年 | 約67% | 約26,700円 |
| 3年 | 約50% | 約20,000円 |
| 4年 | 約33% | 約13,300円 |
| 5年 | 約17% | 約6,700円 |
| 6年以上 | 価値は1円 | 原則1円 |
当サイトの計算(入居時に新品、6年で1円になる直線で計算、張替え費用4万円は仮の金額)。入居したときにすでに古かった場合は、その分だけ負担はもっと少なくなります。
ただし、6年以上たっていても、わざと落書きをしたなど故意・過失で傷つけた場合は、張替えの工事費や人件費を借主が負担することがあるとガイドラインは書いています。年数がたっていれば何をしてもいい、というわけではありません。
畳の表やふすま紙・障子紙は消耗品として、フローリングの部分補修は、年数を考えずに計算されます。
「特約」があると払う場合もある
契約書に「退去時のクリーニング代は借主の負担」などの特約があると、本来は貸主が払うものでも借主が払うことがあります。ただしガイドラインでは、特約が有効になるには次の3つがそろう必要があるとしています。
- 必要性があり、暴利でないなど、客観的・合理的な理由がある
- 借主が、通常の原状回復をこえる負担をすることをわかっている
- 借主が、その負担をすると意思表示している
退去が決まったら、まず契約書の特約の欄を読み返しましょう。なお東京都では、条例で、宅地建物取引業者が契約の前に原状回復の考え方や特約の有無・内容を説明することになっています。
退去の立会いでのチェックリスト
退去のときは、多くの場合、貸主や管理会社の立会いで部屋を確認します。次のことを準備しておくと安心です。
- 入居時の記録を探す:入居時のチェックリストや写真があれば、もとからあった傷を証明できます
- 退去前に部屋の写真を撮る:床・壁・水まわりを、日付がわかる形で残します
- ふだんの掃除をしておく:手入れ不足の汚れは借主の負担になりやすいので、最後に掃除を
- その場で金額に同意しない:わからない項目があれば、あとで明細をもらってから判断すると伝えます
- 明細を書面でもらう:場所・工事の内容・単価・面積・年数をどう考えたかを確認します。ガイドラインにも精算明細書の様式があります
国民生活センターも、入居時に部屋の状況を記録に残すことと、退去時に精算内容をよく確認し、納得できない点は貸主側に説明を求めることをすすめています。
請求に納得できないときの3ステップ
- 明細を出してもらう:通常損耗や経年変化の分がふくまれていないか、ガイドラインと見くらべます
- 根拠を示して話し合う:「ガイドラインでは貸主負担とされている」「入居○年なので負担割合は○%」と、具体的に伝えます
- 第三者に相談する:消費者ホットライン「188」で、最寄りの消費生活センターにつながります。60万円以下のお金の請求なら、原則1回の審理で終わる少額訴訟という裁判所の手続きもあります
原状回復の相談は、国民生活センターのまとめで2025年度に14,711件ありました。めずらしいトラブルではないので、ひとりで悩まず相談しましょう。
次の部屋の準備は、初期費用の計算と引越し料金の目安でどうぞ。いらない家具や家電は不用品の処分方法を参考に、早めに片づけておきましょう。
参考・出典
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(平成23年8月)
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料(令和5年3月、民法621条の条文を掲載)
- 国土交通省・日本賃貸住宅管理協会「これでわかる!賃貸住宅を退去する時の原状回復のポイント」(令和5年3月)
- 国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブル」(相談件数)
- 国民生活センター「住み始める時から、「いつか出ていく時」に備えておこう!」(2023年2月1日)
- 東京都住宅政策本部「賃貸住宅紛争防止条例」
- 裁判所「少額訴訟」
※記事の内容は公開時点の情報です。制度や金額は変わることがあるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。